1歩、1歩を確実に


登山を始めて60年余り。今年で80歳になりました。かつては槍ヶ岳、穂高岳、剱岳などのバリエーションルートを重い荷物を担いで登り、尖塔状の岩峰「チンネ」や、岩がそそり立つ屏風岩の岩壁にも登攀しました。
その後は山へのご恩返しをと、蔵王山、比婆山などの登山道整備に努めました。

しかし最近は、加齢による体力低下や変形性膝関節症のためリハビリ中で、ゆっくりとした登山を楽しんでいます。
誰でも高齢になれば登れなくなるのです。高齢化と身体機能、労災事故の関連については、中央労災防止協会が発行した『エイジアクション100』が参考になります。
それによると、身体機能の低下割合は、最高期(約25歳)を基準とすると、60歳で筋力は75%、視力63%、平衡機能48%、聴力44%、暗さに慣れる能力「薄明順応」は36%にまで低下するそうです。80歳の私は、さらに大幅に低下しています。この数字は、遭難事故の原因のうち、高齢者が夕方の下り道でバランスを崩しての転落・転倒が多いことを裏付けています。

そこで高齢者の皆さまにご助言します。体は日々衰えています。知識や経験があっても、今までできたことができなくなるのです。無理は禁物です。自分が「何ができるか」を確認し、1歩1歩に意識を集中して、安全最優先を心がけましょう。無事に帰宅してこそ、楽しい登山ですから。

もう一つ良い情報があります。「暦年齢」(生年月日)と「生理的年齢」(個人の運動的な成長度合いから分かる年齢)の差は、高齢になるほどばらつきが大きいのです。暦年齢75歳の人では、生理年齢は66歳から84歳。何と18歳という大きな幅があります。好きな山に登る目標があれば、日々訓練を続けられます。訓練して、若返りましょう。