「ヨメナロード」を歩いてみませんか


今から40年前に作家の田中澄江が執筆した『花の百名山』、その15年後に改訂出版された『新・花の百名山』という随筆集がある。のちにNHK-BSでもその内容が放映されたので、特に高山植物に興味がある読者の中にはそのことをご記憶の方も多いのではないかと思う。登山者の中には花を目あてに山歩きをする人も多く、その本は「花の登山ガイドブック」として活用されていると聞く。遠くは北アルプス「白馬岳」のウルップソウ(得撫草)、「槍ヶ岳」のハクサンイチゲ(白山一華)、近くは鳥取「大山」のクガイソウ(九蓋草)などの花名がその本の中にちりばめられている。

福山から北へ向かい東城から車で約30分走ったところに「比婆山」、その少し離れたところに「道後山」という山がある。花の百名山としてその本にこの二つの山が掲載されている。福山山岳会の中には一年の間に何度もこの山を訪れる会員も多く、春夏秋冬どの季節に訪れても心を和ませてくれる名山である。その本では「比婆山」のショウジョウバカマ(猩々袴)、「道後山」のアケボノソウ(曙草)が紹介してある。どちらもその山の代表的な花であるが、言うまでもなくそこでは季節ごとに他のさまざまな花に出会うことができる。

筆者も今年6月、比婆山連峰を歩いた。目的はミヤマヨメナ(深山嫁菜)に会うことである。入梅後、雨に遭うのは覚悟の上で訪れたが、白霧の中、見事なミヤマヨメナの群生には幻想的な美しさがあった。比婆山連峰の中でもこの群生が見られるところは、牛曳山から伊良谷山にかけて通称「ヨメナロード」と呼ばれている。少し足を延ばして毛無山そして烏帽子山の登山道では、ところどころで鮮やかなピンク色のササユリ(笹百合)やコアジサイ(小紫陽花)の美しい花にも出会うことができる。

紹介した比婆山や道後山は普通の体力があれば登れる山である。今回も途中何組かの幼児を連れた家族に出会った。しかしどの山も標高は1000mを越える上、急な登山道もある。必ず雨具、非常食を携行したうえで、特に春夏は虫除け対策をし、可能なら登山の経験者を交えて、花の百名山トレッキングを楽しんでいただきたい。