2018年も早いもので余すところあと2ヶ月。一年を振り返れば年初より30年振りの大雪となったが、逆に桜の開花も梅雨入りも例年より早かった。そして何よりも豪雨や地震などによる自然災害が頻繁に起こった年でもあった。自然の摂理に抗うことはできないけれども、日頃より山をこよなく愛し、大自然の懐に入りその恩恵を受けている者として、自然の偉大さや美しさに対し畏敬の念を抱くことは、人間が成長する上でとても大切なことだと思う。
山に登って可憐な高山植物を見つけ、普段出会えないような美しい景色を眺め、ある時は満天の星を見上げたとき、自身の情緒が安定し慎み深い心を養うことができるような気がする。そんな中で、山では登山者と行き交う際、「こんにちは」とお互いに挨拶を交わす習慣がある。最近では「ハ~イ!」「ニーハオ!」「ヒムネセヨ!」など、南、北アルプスはもちろん近くの大山、四国の石鎚山でも毎回必ずと言ってよいほど、一般登山者に交じって外国の登山者に出会い、挨拶が返ってくる。山での挨拶は世界共通の、気持ちが通ずる魔法の言葉なのであろう。
挨拶には自分の心を開き、親和の気持ちを示すという意味が込められているが、山では目の前のあなたと私はこの世界で同じ時間を共有している大切な関係です、といった連帯感が沸いてくる。というのも登山中の挨拶という行為は単なる礼儀だけではなく、何かトラブルが起きた時に身を守る術でもある。
あってはならないことだが、万一遭難してしまった場合、挨拶をした相手があなたの容姿、服装、ザックの色などを憶えてくれていたら、いざという時の早期救助に繋がる。またその人にこれから行く先の登山道の状況を聞くこともできる。私もこの夏、増水した川を渡る際、すれ違った登山者の危険情報が大いに役立った経験がある。またその相手に「こんにちわ、がんばって」と声を掛けられると、特に厳しい山歩きでは不思議とパワーが沸いてくるものである。