山で遭難する原因の一位は「道迷い」です。誰しも一度は経験があるでしょうが、問題は迷った際の対処方法です。引き返す勇気があれば良いが、ついつい突き進んで取り返しがつかなくなる。恥ずかしながら私の失敗談を紹介します。
十数年前に四国の石鎚連山を単独で縦走したことがあります。初日は保井野から入山して堂ヶ森~二ノ森~石鎚山~土小屋泊、二日目は瓶ヶ森~西黒森~伊予富士~寒風山~笹ヶ峰~丸山荘泊という健脚コースでした。伊予富士までは順調に来て山頂で休憩した後、寒風山を目指して20分ほど進んでいるとだんだん道が狭くなり、ついには行き止まりになりました。間違えたかと引き返しましたが、来た道の他に道はありません。また引き返すと道は無くなる、パニックになり何度か行き来を繰り返してすっかり疲労困憊してしまったのです。
もう明るいうちに丸山荘に着きそうもなく、まずは腹ごしらえと湯を沸かしてコーンスープを飲むと気分が落ち着いてきました。地図を広げて現在地を確認すると、伊予富士~寒風山の稜線からは見えないはずの瓶ヶ森林道が見えます。ここでやっと道迷いに気付きました。とにかく確実な場所まで引き返そうと必死で戻ったのは伊予富士山頂、寒風山への道標は私が進んだ道の反対側を向いていました。つまり多くの人が迷ってできた「迷い道」を本来のコースと思い込んで突き進んでいたのです。ヘッドランプで足元を照らしながら丸山荘にたどり着きましたが、その夜は両足にできた靴擦れの痛みで一睡もできませんでした。
振り返れば道迷いの原因は、日程に余裕がない、単独行、思い込み、地図を確認しなかったなど沢山あります。あのままやけくそで進んでいたら崖や滝に遭遇して進退窮まっていたでしょう。そうなると人間は思いがけない行動をするもので、下に降りようと滝壺に飛び込んで骨折し、一週間その場で救助を待った経験談を読んだことがあります。遭難体験の本はたくさんあるので、ぜひ読んでいざという時の参考にしてください。自分だけは大丈夫ということは絶対に無いのです。